からだの中に 谷川俊太郎
からだの中に
深いさけびがあり
口はそれ故につぐまれる
からだの中に
明けることのない夜があり
眼はそれ故にみはられる
からだの中に
ころがってゆく石があり
足はそれ故に立ちどまる
からだの中に
閉じられた回路があり
心はそれ故にひらかれる
からだの中に
いかなる比喩も語れぬものがあり
言葉はそれ故に記される
からだの中に
ああからだの中に
私をあなたにむすぶ血と肉があり
人はそれ故にこんなにも
ひとりひとりだ
子どもが無邪気で、明るくて純粋だと誰がいったのだろう。
そうかもしれない。
しかし、子どもはどこかで悲しみや孤独を知っているような気がする。
愛されることが当たり前だと思ってる一方で、
人の心に陰翳があるのも知っている。
それは根源的なもののような気もするし、
ひとりであることを感じやすいのかもしれない。
オトナは子どもの夕暮だという言葉もある。
子どもを侮ってはいけない。
なんでもわかっているのだ。
子どもの頃、ああ、あたしは一人だと思うときがあった。
どこかひんやりとさみしいのである。
捨て去られていたということではない。
ただ、ひとはひとりなのだとぼんやり思っていた。
自然と人間界のボーダーで生きていたからかもしれない。
そんな陰翳に富んだ子どもたちが川島小鳥さんの「未来ちゃん」にも
「明星」にも「おやすみ神たち」の中にいる。
「おやすみ神たち」は、谷川俊太郎さんとの共著である。
良ければ、どれか手に取ってみてくださいね。
待望の<ミトジョンテ>は、11月7日より発売開始です。