手 紙 谷川 俊太郎
電話のすぐあとで手紙が着いた
あなたは電話ではふざけていて
手紙では生真面目だった
<サバンナに棲む鹿だったらよかったのに>
唐突に手紙はそう結ばれていた
あくる日の金曜日(気温三十一度C)
地下街の噴水のそばでぼくらは会った
あなたは白いハンドバックをくるくる廻し
ぼくはチャップリンの真似をし
それからふたりでピザを食べた
鹿のことは何ひとつ話さなかった
手紙でしか言えないことがある
そして口をつぐむしかない問いかけも
もし生きつづけようと思ったら
星々と靴ずれのまじりあうこの世で
< 谷川俊太郎詩集『手紙』集英社 より引用 >
好きな詩をひとつ。
恋人にもいっぱい書いたし、友だちにもいっぱい書いた。
友だちとの距離はいろいろだったけど、
コスタリカに行った友だちには、
便箋のような形をして、手紙を書き終わると、封筒の形に三つ折りにして、
ぺたんぺたんと糊付けすると、そのままエアーメイルとして投函できるものがあって、
それを買い込んでせっせと手紙を書いた。
コスタリカに行く前いろいろあったので、
それこそ日本とこの世に想いをつなぐように手紙を書いた。
その間、友だちはさっさと結婚相手を見つけていて、
あとで聞いて、良かったとは思ったけど、
あんた、早くいえよ、とこっそり思った。
学生の時の友だちのまり子はしんどいとき、
あたしに手紙を書いてくれ、という。
なんでもずけずけいうくせに、
自分のしんどいことはいっさい言わない。
後で、あんときしんどかったんや、と思う。
娘を連れて奈良にきたとき。
何度も大阪に通って新しい資格を取っていたとき。
歴代の恋人は全部知っているけど、
結婚した人がいちばんイケてなかった。
そのイケてなかった人と長いことかかって離婚が成立。
イケてない人が調停にも出てこないので、
離婚届をもって相手の会社に乗り込んだら、
あっさり書いてくれたの、とうれしそうにいっていた。
その後、栄養士になる専門学校に2年通い、校長賞をもらって卒業。
今は若いお母さんにいろいろな料理を教えている。
わけがわからない。
一緒にさぼってばかりだったのに、この違いはなんだろう。
すごいなぁ、と思うだけである。
きっとデキの悪い自分を遠慮なくさらけ出せた東京時代だったからである。
みんなあたしがアカン子やと十分知っている。
安心してダメな自分をそのまま出せた。
結婚していたり、ひとりで生きていたり、
ひとりに戻ったり、また一人でなくなったり、
いろいろな人生の形をみんな生きている。
友だちもどんどん変わっていく。
それでいいと思う。
ただ目の前の人々とあーだこーだといいながら付き合ううちに、
こうしていろいろなものがつながっていく。
遠くにいてもそばにいる、感じていられる。
いなくなるひともいるけど、縁があればまた繋がる。
あなたを大切に想っている。
それだけでいいと思う。
手紙やメールやコメント、いつもうれしく拝見してます。
ふっと伝えてくださる言葉にやさしい気持ちになり、
いつもの字を見て、元気をもらっています。
いつもありがとうございます。