なんかオススメの本を知らせろ、
と、まり子がいってきた。
まり子は大学時代の友だちである。
あたしが東京に途方にくれ、
まごまごしていたら、
新宿南口からすぐの新宿高校出身が自慢のまり子が言いやがった。
だからカッペは、やなんだよ、て。
うげー、やなオンナ。
田舎もんで悪かったよ、と、
大嫌いなクラスメイトだったのに、
どんだけ邪険にしても、つきまとう。
何度も、とっととまり子の世界から脱走するのに、
まり子はゾンビのように追いかけてくる。
あたしがカッペとバカにされて、40年が経った。
あたしはしっかり覚えている。
田舎もんはしつこい。
何度も、あんたにカッペとバカにされた、というと、
いつもあはは、あはは、と笑う。
確信犯だったのだ。
あんなにあたしにはズケズケいうくせに、
ダンナに、娘たちを保育所に迎えに行って、
が言えなくて、とうとう娘を連れて家出。
長い調停ののち、相手の職場に離婚届を持ち込んで、やっと離婚。
晴れて旧姓に戻った。
ひとは見かけによらない。
まり子の歴代の彼氏は全部知ってるけど、
結婚したオトコが一番イケてなかった。
まり子はあたしと同様に、
ずんぐり小太りのくせに、
恋人は線の細いイケメンばかりだった。
その後、まり子はシングルマザーとして娘二人を育て上げた。
今は健康食品の代理店をしながら、
2年専門学校に通い、栄養士の資格を取り、
若いお母さんに食育を教えている。
なんなん、あんた、である。
迷惑だろう。
ほんとあたしの一番苦手なタイプである。
立派なひとがあたしは苦手。
すごいオンナで、内心あきれている。
そんなまり子に、
木皿泉さんの「昨日のカレー、明日のパン」と、
よしもとばななさんの「サーカスナイト」と、
小泉今日子さんの「小泉放談」をオススメしといた。
ひとはどこかに欠落感を抱えている。
わけもなく生きるのが苦しくなったり、
人を信じられなくなったり、
突然大切な人を亡くしたりして、
深い悲しみや裂け目のようなものを抱えている。
人に悲しみ、人に傷つけられても、
やっぱり元気にしてくれるのは人なんだと思う。
そんな出来事が連なり、
物語となって癒してくれる。
そんな物語と対談集である。
まり子もきっとあたしにはわからない物語を抱えて生きていると思う。
そこには触れられない。
それはまり子のものだ。
あたしは、これからも、
あんた、あたしをバカにしたよね、
と、悪態をつきながら付き合うだろう。
やたら元気で上から目線の人、
ほんまに苦手なんだけど、
なぜか付き合いが続くのである。